こうして、河口湖合宿最終日の朝がくる。昔の生徒たちは、朝7時まで完全徹夜をやりたがったし、今井君も朝7時まで教室に残って生徒に付きあった。 「どうせここまで来たら、1時間とか1時間半とか中途半端に眠るよりも、完全徹夜のほうがまだ楽だ」。生徒もそう考えるし、ホンの4~5年前までは、若いスタッフも「完全徹夜しろ」「徹夜で最後までやり抜くんだ」と生徒を煽ったものである。 今井君が初めて合宿に参加した8年前には、生徒の半分ほどが朝5時の段階で部屋に眠りに戻ったことに、悔し涙を流すスタッフがいた。「オレたちが燃焼しきれなかったせいだ」と彼は唇を噛んだ。「今年は、失敗だった」と、彼は断言するのだった。 クラス閉講式の挨拶でも、彼は「オレはぁ、悔しいんだよぉ」と呻いた。「あと少しで最後までやりきれたのに、5時で寝にいくヤツが半分もいたじゃないか」「なんで、最後までやりきれなかったんだ?」というのである。たった8年前を振り返っても、この合宿は勢い任せのもっと泥臭い世界だったのだ。 クマ蔵は「ワッショーイ!!」も覚えている。どうしても完全な徹夜を貫きたくて、班別に集まって「ワッショーイ!!」「ワッショーイ!!」と掛け声をかけるのである。6年前だったが、さすがに今井君は嫌悪感を催し、「そういうバカなことはヤメるべきだ」とスタッフにも生徒にもハッキリ言ったものである。(第1期、クラス閉講式) 諸君。最終日の朝、1時間だけの短い睡眠をとる努力をするのも、実際には合宿の仕上げとしてたいへん重要な訓練なのだ。窓には青い朝の富士、富士を映す美しい河口湖。周囲は、暗い地中から這い出てきたばかりの、若々しいセミたちの声が溢れている。 その爽やかな蝉時雨を耳にしながら、ふと気を失うように深い眠りに落ち、眠りの中でも例文220を音読する夢をみる。「英語で夢をみる」という初めての経験だ。生まれて初めて英語で夢をみて、しかも夢は例文のレベルに留まらず、世界のどこかで英語を駆使して活躍する夢だったりすることもある。 1時間ちょっとの睡眠は、「ちょっと気を失っていた」という程度のものかもしれない。しかし目覚めは予想以上に爽快であって、「さて、では修了判定テストにチャレンジしますかね」と、当面の目標に向かって全力を尽くす心の準備ができている。(第2期、クラス閉講式 1) 何度も同じことを繰り返すようだが、冷静に考えれば「合宿修了判定テスト」など、余りにもクダラン、余りにも些細な目標である。「そんなもんで好成績とったって、何にもならないじゃないか」と言い放つこともできる。「テストの点数なんかで、オレたちは燃えないぜ」である。 しかし「じゃ、いったいキミは何に燃えるんだ?」である。目の前にある全てのハードルを1個1個クリアする気のない者が、「もっと大きな目標を」などと発言するのは、オトナの目から見れば、ただの噴飯ものにすぎない。 1打席1打席を大切に戦って、10年も15年も地道にヒットを積み重ねる闘志がなければ、2000本安打は決して達成できない。イチローどんは「他人の記録を破るのは8割か9割の力で出来るが、自分の記録を破るには10割以上の力が必要」と喝破した。達人のおっしゃることはさすがである。(最終日の富士) 修了判定テストで満点をとるのは、きわめて困難である。初見の長文読解問題が出題され、大量の文法問題と語法問題(Mac君の変換は「ご訪問だい」であるが)も解かなければならず、しかも制限時間は45分。強烈な睡魔に襲われながら、これらに正確に対処するのは容易なことではない。 しかし諸君、それでも満点をとる猛者(もさ。むかし「もうじゃ」と読んだ生徒がいたので、念のため)が存在するのである。第2期、「東京医科歯科大が志望です」という男子が、ものの見事に200点満点を獲得した。しかも、表彰式の場でも非常に謙虚。精神年齢ではすでに今井クマ蔵を上回っているかもしれない。 確かに医師という仕事は、どんなに疲労していても、どんな悪条件のモトでも、常に満点を要求される仕事である。少なくとも患者は、目の前の医師が間違いを犯すとは予測していない。ケアレスミスの可能性は常にゼロであることが前提。5日間の睡眠時間が合計21時間、前日の睡眠は1時間。そんな悪条件でも200点満点をとってみせた彼は、医師候補生として、お世辞でなく立派と言ってあげていい。(第2期、クラス閉講式 2) 10時、クラス閉講式が始まる。たった4泊5日ではあったけれども、生徒とスタッフの間にはマコトに微笑ましい強烈な信頼関係が生まれていて、講師として遠くから眺めていても羨ましいぐらいである。 80人を6班に分け、1人のスタッフが12~13名の指導に努めた5日間である。20代のスタッフが1人ずつ前に立って挨拶、心のたけを語りだすと、担当してもらった生徒たちの多くが涙をこらえきれない。 スタッフ1人1人を「隊員」と呼び、クラス全体を統括する責任者を「隊長」続きをみる
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